それは、いつもと変わらない夕餉
話題の中心はやはり恵からの贈り物
ささやかな膳を前に
それこそ小さな灯火のような明るさではあるものの
二人、顔を合わせ
至極のひとときを過ごした
夕餉を終えると薫は湯の支度をし始めた
「剣心、お湯沸かしたから先に入って」
「ああ、すまないでござる、薫殿」
風呂場の格子戸から
剣心が湯に浸かるのを薫は薪をくべながら
「湯加減はどう?」「熱すぎる?」と会話を促す
「ああ、とてもいい湯でござるよ」
そういう剣心の声はいつもと変わらない
だが、薫の心には気になることがまだあった
恵の手紙と一緒に手にしていた本
どんなことが書かれていたのか
知る術は今はない
かといって、今聞き出すのもどうかと
ただ悪戯に心揺らぐだけの
腑に落ちない剣心のあの眼差し
――――剣心は何を考えているの?
薫との会話の合間にも剣心は格子の隙間から見える
ぼんやりとした月を眺めては
僅かに目を細めるばかり
――――剣心・・・
そのうち、剣心が湯から上がることを告げられると
薫はそそくさと火をかたし、
いそいそと家屋に入っていった