剣心の腕の中

薫はふと思い出した

 

 

「ねぇ、剣心」

「ん?なんでござるか?」

「誰が詠んだのか忘れたけどね、好きな句があるの」

「どんな句でござるか?」

 

 

 

 

内に思ふことある者は、外に感じ易し

故に楽(がく)を聞きて哭(こく)する者あり

花を観て泣く者あり

上人(しょうにん)内に已(すで)に思ふ所あり

乃ち(すなわち)外に感ずる所以(ゆえん)なり

 

 

 

 

「か、薫殿?」

「お父様が時折、教えてくれたの」

「よくわからないけど、でも心の中に思っていることがあれば、それはきっと・・・」

「薫殿の父君と会って話してみたかったでござる・・・よ」

「剣心?」

 

 

剣心は薫を強く抱きしめた

そして、天井へと目を向け

薫の口から出た思わぬ言葉を

頭の中で幾度も幾度も反芻した

 

 

 

 

―――――あれは松蔭先生の残した言葉・・・・

 

 

 

 

直接会う機会はなかったが、

志士であった剣心には身近であり

だが、彼の言葉、存在は

明治維新という大きな時代の歯車に

少なからず影響を与えた偉大なる師

 

 

剣心が持っていた古ぼけた本には

彼の言葉が多く書かれていた

 

彼も激論を交わす仲間内に入ることはなかったが

その情熱、連帯感は忘れることができなかった

 

 

 

 

 

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