「薫殿・・・・」
「剣心・・・・」
少しばかりの間合い
「薫殿に心配をかけさせるつもりではなかったで・・・ござる・・・」
「剣心?」
「恵殿が拙者にも託した手紙に・・・」
「何か悪い知らせでもあった・・・の?」
「そうではない。」
剣心は今しがたまで
筆で何を書きたかったのか
水で僅かに歪んだ半紙の上に
恵からの手紙を広げ、
薫に語り始めた
恵からの手紙はさして文章があるわけでもない
とりわけ、近況報告、そして元気にやっている、
薫と仲良く・・・
それくらいの書簡
そこに剣心は何を感じたのか
薫はそっと剣心の顔を伺った
「恵殿は地元に帰って女医として懸命に頑張っているらしい」
「そう・・・みたいね」
まだ剣心の意図はつかめない
「維新の際、向こうの被害は尋常ならないものと耳にしていたでござる」
「・・・・・」
「拙者は京都より向こうに行くことはほとんどなかったが
仲間の訃報と共に耳にしたことは今も忘れられぬでござるよ・・・」
「剣心・・・」
剣心の顔が少し曇り、
薫の手をぎゅっと握り締めた
「恵殿の親族も多くの犠牲があったと聞く」
「そう・・・だったんだ・・・」
「二本松では、まだ元服にも満たない少年達が・・・!」
「剣心!」
普段なら決して見せることのない
悲しみの目
自分の過去の業の深さ
前に向かって歩くと誓ったとて
過去は消えることはない
あまりにも過酷な過去を
一体どうして消せるものか
―――――もうよい!攘夷志士共がそこまで来ている!
―――――先生!私達はまだ戦えます!
―――――ならぬ!これ以上ここにいてはならん!
―――――木村先生!
―――――主らには未来がある。この国の行く末を見る若者なのだ!
―――――先生!
―――――わかるなら、今すぐ引け!ここは拙者が繋ぎ止める!
―――――先生・・・!!!
・・・守るも地獄、攻めるも・・・地獄・・・・
「読んでいた本はこれでござるよ・・・」
薫が気にかけていた一冊の古びた本
剣心がまだ抜刀斎として戦っていた頃、
仲間達が読んでいた本だという
そして、それは唯一の形見となってしまった
「これ、日記?」
「それを託した仲間がそこによく書き込んでは夜な夜な討議していたでござる・・・」
「・・・色んな人が書いていたのね・・・」
あまりにも古ぼけ、字すら読めない箇所が多々
だが、その字一字一句は
剣心にとってかけがえのない仲間達の生きた証
「ここに来るまでは、よくそれを見ては自分自身を戒めたでござった・・・」
「・・・・・」
「あまりにも多くの命の犠牲の上で今があることを忘れかけていたのではないか、と・・・」
「剣心!」
「薫殿とのこの生活があるのも、彼らの・・・志士も何もない!多くの民の・・・!」
「もういいから!剣心!」
「薫・・・殿・・・」
「もう・・・いいから・・・・」
そして、薫は自ら身を乗り出し
剣心の唇へ己の唇を運び
続く言葉を遮った・・・・